新型コロナウイルスの感染拡大を契機にデジタル化が急速に普及し、インターネットの広告市場は高い水準で成長を遂げています。

その中でも、近年とくに高い注目を集めているのが動画広告です。

サイバーエージェントが発表した「国内動画広告の市場調査」によれば、2021年の市場規模は前年比42.3%増の4,205億円で、今後も成長は続き2022年は5,457億円、2025年には1兆465億円に達すると予測されています。

急成長を続ける動画広告で自社のWebメディアを宣伝したいと考えた場合、動画規格の種類である「VAST」「VPAID」は必ず覚えておかなければいけません。

この記事では、VASTとVPAIDの仕組みと、それぞれの違いをわかりやすく解説します。

VASTとは

VASTは「Video Ad Serving Template」の略称で、アメリカのWeb広告団体IABが定めた動画広告の規格の1つです。

動画配信に携わるGoogle、Yahoo!、Microsoft、Adobe Systemsなどの世界的な大企業が仕様の策定に携わっており、Googleが提供するアドサーバーがサポートしています。

VASTが定めている動画広告の仕様は下記の3点です。

  • 動画広告ファイルのURL
  • リンク先ページのURL
  • 再生数やクリック数などのデータ送信先

嚙み砕いてわかりやすく説明すると、VASTは動画プレーヤーと動画広告の配信サーバーを接続する際のルールです。

VASTは世界的に定められた標準規格なので、動画広告がVASTの規格に準拠していれば、動画プレーヤーと配信サーバー間で個別にデータの受け渡し方法を決める必要はありません。

動画広告を出稿する際は、VASTの規格に準拠している動画広告を用意しておけば、VAST対応の動画プレーヤーを採用しているさまざまなメディアへ出稿することができます。

VASTの仕組み

動画広告の流通を円滑にしたVASTでは、下記で紹介する2つの仕組みに注目してください。

広告効果を測定するためのデータ収集

VAST対応の動画プレーヤーを採用しているメディアへVAST規格に準拠している動画広告を配信すれば、広告効果を計測するためのさまざまなデータを収集できます。

具体的には、VASTを利用することで下記のデータを収集できます。

  • 再生数
  • インプレッション数
  • クリック数
  • 一時停止数
  • ミュート数
  • スキップのタイミング

一時停止、ミュート数、スキップのタイミングなどの詳細なデータを収集できるため、広告主は新たな評価方法を用意して効果を測定できます。

動画広告を出稿している各メディアで広告効果を測定できるため、広告主はより効果の高いメディアを分析したうえで、適切な予算配分を行えるでしょう。

さまざまな種類の広告をサポート可能

一口に動画広告といっても、その種類はさまざまです。VASTでは、下記で紹介する3種類の動画広告をサポートしています。

  • リニア広告
  • ノンリニア広告
  • コンパニオン広告

リニア広告の代表的な種類は、動画本編の再生前後や途中に流れるプレロール広告、ポストロール広告、ミッドロール広告です。

ノンリニア広告は、動画再生中にオーバーレイで表示されるバナー広告で、コンパニオン広告は動画プレーヤーの周辺に表示されるバナー広告です。

一口に動画広告といっても種類はさまざまなので、自社のWebメディアを効率よく宣伝できる方法を検討することができます。

動画広告の種類に関しては下記の記事でも詳しく解説していますので、興味がある方は合わせてご覧ください。

インストリーム広告とは?6種類の特徴・メリット・掲載方法を詳しく解説!!

VPAIDとは

VPAIDは「Video Player Ad-Serving Interface Definition」の略称で、VASTと同じくアメリカのWeb広告団体IABが定めた動画広告の規格の1つです。

長らく動画広告はVASTが標準規格でしたが、詳細な効果測定とリッチな広告表現ができるという点から、近年ではVPAIDへの注目度が高まっています。

広告インテリジェンス企業のエクスポネンシャル(Exponential)でグローバルパブリッシャー開発担当バイスプレジデントを務めるリックアベル氏は、「VASTはごく普通のクリエイティブ向けだが、VPAIDを採用すればパブリッシャーは利益を得られる。」と述べています。

VPAIDは動画プレーヤーに指示を与えるスクリプトなので、広告の再生、長さ、表示場所など、さまざまなコントロールの配置場所を決定することが可能です。つまり、VPAIDは広告主からすれば、インターフェース仕様と考えてもらえればわかりやすいかもしれません。

具体的には、VPAIDを用いれば動画広告の中にソーシャルボタンを設置したり、広告をクリックするだけで製品やサービスの詳細情報を表示することができるようになります

このようなインタラクティブな機能はVASTでは実現できませんので、動画広告の最適化と成果向上を目的としているのであれば、VPAIDを用いた方がいいとされています。

VPAIDの仕組み

ここからは、VPAIDの注目すべき2つの仕組みを解説します。

より高度な効果測定を実現できる

VPAIDを用いることで、VASTよりも高度な効果測定を実現できます。

前述したようにVAST対応の動画でも再生数、クリック数、インプレッション数、ミュート数などのデータは収集できますが、VPAIDではより詳細な下記のデータを計測できます。

  • ビューアビリティ
  • アドフラウド

動画広告で最も重要視される点は、その動画を視聴したユーザーの態度がどのように変化したかです。

VPAIDでは、総インプレッションに対して広告が見える状態で掲載されている割合を示すビューアビリティと、botやロボットによる数字の操作がないかを調べるアドフラウドの計測が可能なので、ユーザーに対して動画広告が正しく届いているかを正確に計測できます。

VASTで計測できる単純な数だけではなく、正確にリーチできているかどうかを計測できるため、より精度の高いPDCAサイクルを実現できるでしょう。

インタラクティブなクリエイティブ表現が可能

VPAIDを用いれば、インタラクティブなクリエイティブ表現が可能です。

従来までの動画広告では、ユーザーは動画をただ視聴するだけで、次のアクションに繋がりにくいという課題が挙げられていました。

しかし、VPAIDのAPI規格を使えば、視聴者が自ら次のアクションを起こしてもらえるような仕掛けを作り、広告表現を豊かにすることができます。

具体的には、下記のようなクリエイティブな表現を実現できます。

  • SNSのシェアボタンやアンケートの配置
  • ボタンをクリックすると動画が縮小してWebメディアが表示される
  • 動画を見ながら「いいね」や「ツイート」を選択できる

韓国の自動車メーカー「Hyundai」では、動画広告の下部に6つのアイコンを設置し、SNSのシェアボタンや問い合わせ先のリンクを設置しました。

Microsoftは動画広告の中に3つのサムネイル画像を表示し、ユーザーが自ら見たい動画を選択できるような取り組みを実施しています。

リッチな広告表現を実現できるVPAIDでは、従来までの動画広告の問題点を解決したうえで、より効果の高い宣伝効果が期待できるのです。

VASTとVPAIDの違い

最後に、VASTとVPAIDの違いを要約して解説します。主な違いは下記の3点です。

  • 機能性
  • 動画広告の構造
  • 効果測定

VASTは動画プレーヤーと動画広告の配信サーバーを接続し、VPAIDは動画プレーヤーと動画広告クリエイティブを連携しています。

動画広告の構造の部分では、VASTは再生するメディアの枠の決定や広告の長さ、スキップの有無などを判断できます。VPAIDはこれらに加えて、ズームインやアウト、SNSのシェボタンの配置やアンケートの実施など、さまざまな要素を追加できます。

また、VASTよりもVPAIDの方が高度な効果測定が可能であり、よりユーザーに対して適切にリーチできているかを判断することが可能です。

しかし、VPAIDを用いれば視聴者のアクションに合わせた双方向通信を実現できるというメリットがある一方で、VAST経由で取得したSWFファイルを動画プレーヤーに被せるという手間の部分はデメリットとして挙げられます。

それぞれの違いをしっかりと把握したうえで、自社のWebメディアを動画広告で配信する際に適切なのはどちらかを検討していきましょう。

まとめ

動画広告の規格である「VAST」と「VPAID」の仕組みを解説していきました。

VASTはIABが策定した動画広告の標準規格で、VPAIDは高度な効果測定とリッチな広告表現を実現できるAPI規格です。

そのため、動画広告を配信することだけが目的なのであれば、VASTを押さえておけば全く問題はありません。

しかし、より高度な効果測定やリッチな広告表現を実現したいと考えている場合は、VPAIDを用いた動画広告を作成する必要があります。

メディアの中には、VASTは対応しているがVPAIDは非対応の動画プレーヤーもあるため、その場合は、VPAIDの部分を取り除くことで配信できます。

自社のWebメディアを動画広告で宣伝したい方は、VASTとVPAIDの仕組みを把握したうえで、適切な選択ができるようにしておきましょう。

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