我々の生活には、ネットを介したさまざまなサービスが入り込んでいます。

メール、SNS、ショッピング、動画などの個人向けサービスのほか、実社会の産業もありとあらゆる業界がネットを使ったサービスや業務を展開しており、ネットがなければ仕事や生活が成り立たないという人も多いのではないでしょうか。

ネットのおかげで生活や仕事が便利になる一方で、増え続ける情報を管理する煩雑さやプライバシー侵害のリスクが顕在化してきています。

それらを解決するための鍵として注目されているのが、ユニバーサルIDです。

一般的には馴染みが少ないため、言葉の使われ方もさまざまですが、今回はユニバーサルIDが持つ二つの側面を詳しく解説します。

ユニバーサルID(UID)とは

ユニバーサルという言葉には「共通の」という意味があり、ユニバーサルIDを直訳すると「共通ID」という意味になります。

ユニバーサルIDとは、さまざまなサービスやシステム間において共通で使えるIDです。

ログイン用の識別子としての用途のほか、Web広告業界のターゲティング用識別子としての用途でも注目されています。

ユニバーサルIDの共通ログイン識別子としての用途

過去に登録したWebサービスのログイン情報を、パスワード管理ツールに保管している人も多いのではないでしょうか。

それらのログイン情報を1つのIDにまとめて、複数のサービスを利用できるようにするのがログイン識別子としてのユニバーサルIDの概念です。

A社のサービスも、B社、C社のサービスも一つのIDで利用できれば、ユーザー側の利便性は高まります。

ただし、現状では一企業グループ内のサービスで共通して使えるIDといった意味合いが強く、ユニバーサルIDという言葉もあまり使われていません。

Planet IDを提供しているPlanetwayのようにIDソリューションを専門にしている企業が、ユニバーサルIDサービスを展開する例もありますが、まだ参加企業は限られており一般的とはいえない現状です。

GoogleアカウントはユニバーサルID?

GoogleにはGmail、Googleカレンダー、Google広告など、多種多様なサービスがあり、Googleアカウントを一つ持っておけばどのサービスも利用ができます。

また、 Googleアカウントと連携している外部のWebサービスも多く存在し、そういった意味ではユニバーサルIDの概念に近いポジションにあるといえるでしょう。

しかし、外部サービスとのログイン連携はユニバーサルIDではなく、ソーシャルログインという括りで語られるのが一般的です。

ソーシャルログインは、WebサービスなどがGoogleやFacebook、LINEなどの有名SNSとログイン連携する機能のことを指します。

マイナンバーはユニバーサルID?

マイナンバーは日本国民1人ずつに割り当てられた識別子ですから、ユニバーサルIDとしての機能は十分にあるといえます。

しかし、 マイナンバーはユニバーサルIDとはやや性質が異なります法律上の制限が複数あり、マイナンバーを利用できるのは税や福祉の分野のみです。

現在、医療分野や教育分野で、ユニバーサルIDを導入して国民の健康や教育を継続的に支援する態勢づくりが検討されていますが、法律上の制約からマイナンバーの利用は検討対象から外されています。

ちなみにインドでは、国民識別番号制度である「アドハー」を導入したのち、民間企業でも活用しやすいようにSDKAPIが公開され、社会のデジタル認証が一気に進展したと言われています。

SDKとAPIの違いについて詳しく解説している記事はこちら

 

「日本のマイナンバーも見習うべきではないか」という声も多くあるので、今後はさらに広く活用される可能性はあります。

ユニバーサルIDのターゲティング広告用の識別子としての用途

二段階認証のイラスト(シンプル)

ユニバーサルIDという言葉が最も頻繁に使われているのは、アドテクノロジー業界です。

広告の自動配信システムでは、端末ごと、あるいはブラウザごとに配信する広告の内容を自動的に調整しています。

配信内容を調整するためには、ユーザーを一意的に識別する必要があります。

その識別用にユニバーサルIDを生成し、広告エコシステムの中で共有する取り組みが行われています。

アドテク業界がユニバーサルIDに注目する背景

従来、広告配信システムがユーザーを識別する際に利用するのはユニバーサルIDではなくサードパーティCookieと呼ばれる小さなデータでした。

Cookieは、ユーザーがWebメディアにアクセスした際に、ユーザー側のブラウザに自動で保存されるデータのことで、閲覧したサイト名や閲覧日時、ユーザーの利用環境などが記録されています。

広告配信業者はこのCookieを識別情報として活用することで、ユーザーの興味対象を類推し、配信する広告内容を調整しています。

広告は誰に何をどう伝えるかで、クリック率や成約率が大きく変わります。料理の情報ばかりを追っている人に、会計ソフトの広告を見せても芳しい成果は得られません。

しかし、Cookieを利用すれば「この人は料理のサイトをよく見ている」という情報を知ることができるので、「それならレシピ本の広告を配信しよう」という判断ができます。

これをターゲティングといいます。

しかし、従来はユーザーの同意を得ることなく勝手にCookieを利用していたため、「閲覧履歴などのデータを勝手に利用するのはプライバシーの侵害ではないのか?」という議論が巻き起こり、規制が入り始めました。

現在、iPhoneやiPadに最初から入っているブラウザ「safari」では、ターゲティング広告に利用される「サードパーティCookie」は利用できなくなっています。

Googleも同様に、GoogleChromeでのサードパーティCookieの利用を制限すると発表しています。

サードパーティCookieが利用できなければ、ユーザーを識別することも広告のターゲティングもできません。

そのため、 Cookieに替わる識別子が必要となり、広告配信のエコシステムの中でユニバーサルIDを生成して共有する取り組みが一部のIDソリューション企業で行われています。

ユニバーサルID生成に利用される情報

アドテク業界で使われるユニバーサルIDは、ユーザーの同意を得た上でメールアドレスや電話番号、IPアドレスといった情報を利用して生成されます。

ユニバーサルIDの生成に使用するユーザー情報は、2つのパターンがあります

  • メールアドレスや電話番号といったユーザーを完全に識別できる情報から生成する確定型ID
  • IPアドレスやブラウザ情報など、ユーザーを完全に特定できない周辺情報から生成する推定型ID

 

確定型IDはユーザーを確定しやすくなる反面、メールアドレスを使ってターゲティングしても良いかと事前に同意を得る必要があります。

この確定型IDを使用している例としては、Liveramp IDなどが挙げられます。

一方、推定型IDもほぼユーザー単位でのターゲティングが可能ですが、確定型IDほどの精度はありません。

その反面、確定型ほど同意のハードルも高くはありません。推定型IDはID5、IM-UIDなどが挙げられます。

Cookie代替としてのユニバーサルIDの課題

ユニバーサルIDは、概念としてはさまざまな企業が提唱していますが、ユニバーサルと言いながら共通して使える範囲は限られており、広告業界で標準化された規格は現在も存在していません。

Cookieのように、ユーザーがWebメディアにアクセスしただけで足跡を残すような仕組みではなく、いちいちユーザーの許可を得る必要があるのでどうしてもユーザーデータの収集に時間を要します。

さらに、Cookieの代替案ができても、GoogleやAppleが納得する仕組みでなければ結局ブラウザから追い出されてしまいます。

Cookieを使わずにターゲティングを行う方法をGoogleも含めた世界中のIDソリューション企業がリリースしていますが、まだまだ紆余曲折がありそうな状況です。

ユニバーサルIDソリューション5選

ここからは、ユニバーサルIDソリューションとして提供されているサービスを紹介します。

ID5 ID

ID5は、Webメディアの運営者・広告主・広告配信事業者などが、サードパーティCookieに頼ることなくユーザーを識別できるIDソリューションです。

識別に用いられるデータはハッシュ化されたメールアドレスや電話番号などの「確定型情報」と、IPアドレス、OS、ブラウザといった「推定型情報」の2種類で、ユーザーの同意を得たうえで活用する仕組みになっています。

ID5では、この「確定型情報」と「推定型情報」の2つを組み合わせることで世界中のオンラインユーザーの6割~7割を識別できるとしています。

ID5の実装についての記事はこちら

 

IM−UID(IM Universal Identifier)

IM-UIDは、DMP専業最大手インティメート・マージャー社が展開する類推型の共通IDプラットフォームです。

ファーストパーティCookieの情報を突き合わせることでユーザーの同一性を類推するアルゴリズムが採用されており、IM-UIDを活用したリターゲティング広告では高いクリック率を誇ります

Ramp ID

Ramp IDは、データ接続プラットフォームの先進企業であるLiveRamp社が提供する共通IDソリューションです。

メールアドレスなどの人ベースの情報を匿名化した上で、さらにRamp IDに変換し、広告エコシステムの中で高い安全性を維持しながら共有する仕組みを作っています。

IM−UIDが類推型のIDなのに対して、LiveRampは人ベースの情報から生成される確定型IDなので、精度の高いターゲティングが可能です。

Unified ID

Unified IDはDSP企業であるTrede Deskにより開発された、Cookieに代わる新しいIDソリューションを意味します。

従来までは3rd party cookieが行動ターゲティングの中心を担う機能でしたが、規制や廃止に伴い、Unified ID 2.0という新しい広告の仕組みが誕生しました。

Webメディアに紐づけされたUID2 Tokenは、認証が済んでいるDSPでしか復号できません。そのため、Unified ID 2.0が機能するためには復号を行えるプロバイターが必要です。

“Unified ID 2.0″についての記事はこちら

 

まとめ

ユニバーサルIDは使われるシチュエーションにより、さまざまな受け取り方があります。

例えば、ログイン情報の一元化であれば、利便性が向上する反面、情報漏洩時のリスクも大きくなるのでどちらに注目するかで反応が異なっていきます。

アドテク領域では、広告のターゲティングに利用されているため、「余計なこと」とネガティブな反応をする人と「知らない情報を教えてくれる」とポジティブに受け止める人に分かれます。

感情がどちらに傾くかは、ユニバーサルIDソリューションを提供している企業の知名度にも左右されるため、まずはより多くのサービスで利用されることが重要となります。

しかし今は群雄割拠の様相を呈していますので、業界標準の規格が誕生するまでにはまだ時間がかかりそうです。

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